天才外科医の密かなる執愛~傾国の微笑は運命を耽美に狂わせる~
外に出ると、開けた景色の先に広い海が見えた。よく晴れた空には満点の星。思わず「わあ」と感嘆の声を漏らす。

「今回はこの景色を見に来たってことにしておこう」

大きく伸びをしながら黎士が言う。ただ悲しいだけの旅にはさせまいとしてくれているのだろう。

「そうします。……昼の海も綺麗でしたけど、夜の静かな海も素敵ですね」

こうして海を見るのは何年ぶりだろう。働いてからはろくに旅行もしなかったから、随分と久しぶりな気がする。

ふと、藍衣の肩に彼の手が触れる。隣を見上げると、星々の明かりを受ける黎士の横顔。

濃紺の闇に白い肌がぼんやりと浮かび上がり、遠くを見つめる瞳は星の光を吸収したかのように輝いていて、とても綺麗だなと思った。

「広い景色を見ていると、飛んでいきそうな気がしないか?」

それは、空に吸い込まれそう、みたいな感覚だろうか。視界いっぱいに空が広がったときに感じる、足もとが覚束なくなる感じ。

「こうしておけば、藍衣が飛んで行っても捕まえてやれる」

それが肩を抱いた理由だろうか。

「もしかして、私がまたいなくなると思っていますか?」

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