天才外科医の密かなる執愛~傾国の微笑は運命を耽美に狂わせる~
(たくさんの命を救ってきた、立派な外科医なのよね)

祖父の命を救ったように、多くの患者の命、そして患者の家族の心を救ってきたのだろう。そう思うと彼という存在が誇らしく思えてくる。

(私は……彼の婚約者になれて、よかったのかもしれない)

この数カ月、藍衣の目から見た黎士は、実直で優しい人間だ。少々言葉足らずで、急にキスをしてきたり甘えてきたり、とんでもない一面はあるけれど、それでも充分信頼に足る人物だと思う。

なにより、黎士が誠実に自分を愛してくれているのが伝わってくる。

(そんな彼のことを、私は――)

好きという気持ちが自分でもはっきりとわかるくらいに膨らみ始めていた。



食堂で昼食を食べていると、トレイを持った一葉が正面の席に座った。

富裕層向けの施設というだけあって、スタッフ用の食堂も高級な料理が用意されている。にもかかわらず彼女のメニューはいつも天ぷら蕎麦。一年四カ月前から好みが変わらずで、思わず笑ってしまった。

「藍衣。調子はどう?」

「良好です。仕事も少しずつ思い出してきました」

「よかった。でも、くれぐれも無理しないでね。あなたは少し、頑張りすぎるところがあるから」

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