天才外科医の密かなる執愛~傾国の微笑は運命を耽美に狂わせる~
雑談を交わしながら食べ進めていると、ふと足音が近づいてきて背後で止まった。

「藍衣、見つけた。……お疲れ様です、奥平統括部長」

そう言って藍衣の隣に食事のトレイを置いたのは黎士だ。

白薔薇所属の医師も、ロイヤルフロアの患者から執刀の指名を受けた場合は、この食堂を使うことができる。

「私のことはおまけみたいに挨拶したわね」

一葉が苦笑する。

「むしろ、統括部長がいてくれてよかったです。さすがに藍衣とふたりで食事をしていると目立つので」

家では藍衣にベタベタの黎士だが、職場ではTPOをわきまえるらしい。藍衣は少しだけホッとした。

「滝沢先生、お疲れ様です。朝の救急の患者様は大丈夫でしたか?」

黎士がやや驚いた顔をする。救急の事情を知っているのが意外だったのだろう。だが、すぐに「ああ、問題なかった」と水をひと口飲んだ。

「ただの心筋梗塞だから、カテーテルで済んだ」

「ただのって……」

患者からすると全然『ただの』ではないのだが。

とはいえ、頻繁に手術をする黎士からすれば、開胸しないカテーテル治療で済むのは幸いの部類なのだろう。

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