天才外科医の密かなる執愛~傾国の微笑は運命を耽美に狂わせる~
そのあたりの事情に詳しそうな一葉。姪っ子が黎士のもとに嫁がされると聞いて、どう思ったのだろう?

そのとき、黎士がびくりと反応し、胸元のスマホを取り出した。

緊急連絡用の端末が震えている――呼び出しだ。患者の急変や急患が出たのだろう。

黎士が「まだなにも食べてないのに」とげんなりとした顔をする。

藍衣はコンシェルジュの顔でにっこりと笑って、彼の食事のトレイに手をかけた。

「片付けておきますので、行ってください。医師のサポートも私の仕事ですので」

案にさっさと行ってこいと促され、黎士は複雑な表情で「よろしく……」と呟く。

食べられないのがよっぽど悔しかったのか、牛フィレ肉のカットステーキをひと切れ口に突っ込むと、スマホを耳に当てて立ち去った。

「まったく。優秀で頼もしいわね」

黎士のうしろ姿をにこにこと見守る一葉。なぜか黎士には素直になれない藍衣も、なんだかんだ言って彼を立派な医師だとは理解している。

「本当ですね」

すでに真剣な表情に様変わりした彼を、遠くから眺める。

一葉の食事が終わりに近づいていることに気づき、藍衣はすかさず「あの」と声をかけた。

「父の話なのですが」

< 111 / 252 >

この作品をシェア

pagetop