天才外科医の密かなる執愛~傾国の微笑は運命を耽美に狂わせる~
「郷一郎がどうかしたの?」

「父は、その……黎士さんをひどく恨んでいるようで」

黎士から事情を聞いてしばらくして、父に電話をかけた。黎士のことを忌み嫌っているのはなぜか。なにか誤解があるのではないか――そんな話をした。

しかし、父は自分の意見を曲げなかった。朱璃が今も苦しんでいるのは、すべて滝沢黎士のせいだ。事故も、彼がそそのかしたに違いないと。

すると、一葉がテーブルに身を乗り出し、声をひそめて告げた。

「藍衣。いくら相手が父親といえど、他人の言葉を鵜呑みにしてはいけないわ。あなたが目で見たものを信じなさい」

その助言は、まるで藍衣の胸の内を読んだかのように、欲しい言葉が詰まっていた。

愛する父の言葉とはいえ、盲目に信じるのではなく、自身が目にしたものを信じるべき――やはり藍衣にとって、黎士は信頼に足る人だ。

そして、大切な人でもある。

「ありがとうございます、一葉伯母様」

そう言って藍衣はトレイをふたつ分、片付けようとする。その手を一葉が「待った」と掴んだ。

「このフィレ肉、捨てるにはもったいなくないかしら? いっそ、ふたりで食べちゃわない?」

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