天才外科医の密かなる執愛~傾国の微笑は運命を耽美に狂わせる~
心配になり見上げると、彼がふっと目元を緩めた。

「そんな顔するな。もう呪いなんて言うつもりはないから」

ちらりと視線を巡らせ、周囲に人がいないことを確認すると、藍衣の前でしか見せない強かな笑みを浮かべた。

「藍衣を幸せにできるなら、呪いだろうが罰だろうがなんだってかまわない」

そう言って藍衣の手を取り、指先にそっとキスをする。

動揺をひた隠す藍衣の様子を楽しげに観察したあと、指先に唇を沿わせたまま言った。

「もしも、俺との関係を妬むやつがいるなら、険悪な夫婦の振りをしていろ」

その言葉から、彼は藍衣に嫉妬の矛先が向かないよう、あえて人前ではそっけない態度を演じていたのだと気付く。

「……ご心配なく。ちゃんとみなさん、黎士さんとの婚約を認めてくださいましたから」

「へえ。人望あるんだ」

ニッと微笑んだあと、人の気配を感じたのかするりと手を離し、何事もなかったかのように颯爽とその場を立ち去った。

先の廊下から人の声が聞こえてくる。まだドキドキと高鳴る鼓動を隠すように唇を引き結び、藍衣も歩き出した。




「失礼いたします」

その日の午後、呼び出しを受けて先日入院したばかりの患者がいる二〇三号室を訪れた。

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