天才外科医の密かなる執愛~傾国の微笑は運命を耽美に狂わせる~
彼女は舌打ちでもしそうな表情で黎士を一瞥する。侮蔑の言葉をごっくんと呑み込んだのが伝わってきた。

「……その塩対応、ぞくぞくするな」

「え? 今、なにか気持ちの悪いこといいました?」

「いや、なんでもない」

彼女は黎士のことがあまり好きではないようだ。医師とコンシェルジュという立場上、ギリギリの礼節は保っているものの、できるだけ近寄りたくないと思っているのは確かだろう。

空いていたデスクに座ると、彼女はあきらめたのかパソコンに向かって事務作業を始めた。

「あなたは空気というより、医師です。それ以上でも以下でもありません」

間違いなく本心であるその言葉を、黎士はほっこりした気持ちで受け取る。

自分に媚びない彼女といると、ホッとする。きっとこの先も彼女は自分の外面以外――内面や肩書き、医師としての実績だけを見るのだろう。

こちらを無視して仕事を続ける彼女をぼんやりと眺める。

「あらあら。またこんなところでサボっていたのね、君は」

そこへ、やってきたのは一葉だ。藍衣がひとりきりになる夜のこの時間、黎士がコンシェルジュルームに逃げ込むことを知っているただひとりの人間だ。

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