天才外科医の密かなる執愛~傾国の微笑は運命を耽美に狂わせる~
他人に好意を寄せられるのが恐ろしいとすら感じる自分が、女性に対して『かわいい』と口にしたのは初めてだ。

とはいえ、『かわいい』は同僚に対して言っていい言葉ではない。

「やっぱり出ていってもらえます?」

「うそうそ、ごめん。もうなにも言いませんし見ません」

両腕を枕代わりにしてデスクに突っ伏す。しばらくするとカタカタカタというキーボードの音が聞えてきた。彼女が粛々と仕事を進めているのだろう。

その音を子守歌に、ウトウトとし始める。そういえば昨晩は夜中にオペが入り、まともに寝ていなかった。

いつの間にか意識を失い、コトリという音で目が覚める。

ゆっくりと目を開けると、目の前には湯気の立った紅茶とエクレア。その横に藍衣が立っていた。

「もうすぐ夜勤と交代の時間ですので、そのお茶とお菓子を食べたら帰ってください。ほかのスタッフと顔を合わせたくないんでしょう?」

慌てて腕時計を確認すると、この部屋に来てからすでに二時間が経過していて驚いた。

「うわ……爆睡だ」

「呼び出しの端末は鳴っていませんでしたよ」

< 150 / 252 >

この作品をシェア

pagetop