天才外科医の密かなる執愛~傾国の微笑は運命を耽美に狂わせる~
藍衣に引き留められ、足を止める。彼女は手に持っていたハンカチを掲げてこちらを見上げた。

「口元にクリームがついてますよ、ほら」

黎士の口元をハンカチで拭う。自分の目線より上に手を伸ばし、一生懸命拭き取る姿が妙に愛らしい。それから、今度は黎士の手を持ち上げた。

「ちゃんとあとで消毒してくださいね」

そう言って、ぺろりと舐めてごまかした方の指先をハンカチで拭う。

「もう。手がかかるんですから」

眉を下げて笑う彼女を見て、胸がきゅんと疼いた気がした。

(かわいいなあ)

これまで顔や体に触れてくる女性はたくさんいたが、彼女は違う。

打算などまるでなく、手のかかる弟、あるいは患者のように世話をしてくれるのが新鮮だ。

もっと彼女の手を煩わせたい、世話を焼いてほしい。そう思うあたり、自分でも意外なほど甘えたがりな一面を持っているらしかった。

「……やっぱりそれ、俺が洗って返す」

この先も彼女と話すきっかけがほしい、そんなやましさを抱えて、彼女の手ごとハンカチを握りしめる。突然手を握られて驚いた彼女は、「えっ? え?」と狼狽える。

「クリームもついちゃったし。白いハンカチだから目立つかも」

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