天才外科医の密かなる執愛~傾国の微笑は運命を耽美に狂わせる~
警備員の目をかいくぐったのか、入院中の祖父やここで働いている親族の名前を出して入ったのかはわからないが、一般人が立ち入っていい場所ではなく、しかも時刻は二十三時。さすがに黙ってはいられなかった。

「もしかして、ずっと待っていた?」

「ううん。黎士さんの手術が終わる時間を見計らったから、待ってないよ」

「……どうして俺のオペの時間、知ってるんだ?」

尋ねると、彼女はちらりと舌を覗かせていたずらっぽく微笑んだ。

「病院のサーバーをちょこっと覗いちゃった。そういうの、得意だから」

朱璃の職業は藍衣から聞いていた。IT企業でセキュリティについて研究する仕事をしているそうだ。俗に言うホワイトハッカーというやつらしい。

さらりと犯罪めいた行為を匂わされ、ぞっと背筋が冷たくなる。

彼女にとっては、サーバーへの侵入も立ち入り禁止の場所での待ち伏せも些細なことで、悪意はないらしい。

(というか、病院のシステムって、そんなにセキュリティが甘いのか?)

のちのち、それを聞いた一葉が仰天することになるのだが。

朱璃は悪びれる様子もなく、小さな紙袋を差し出してくる。

「どうしてもこれを渡したくて」

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