天才外科医の密かなる執愛~傾国の微笑は運命を耽美に狂わせる~
「ドレス……退院用の、ドレスを頼まれて……発注したものを、お届けして」

藍衣が疲れてきたのを見越し、一葉は「ありがとう。もう大丈夫よ」と制止する。心配させまいとして笑顔を作るも、その表情には明らかに動揺が混じっていた。

「やはり記憶障害でしょうか……」

聞き覚えのない患者名、知らない業務内容、一瞬彼女の妄想や作話を疑った黎士だが、一葉はゆっくりと首を振った。

「青木様は、以前ロイヤルフロアに入院していた患者様。とても手のかかる方だったから、印象が強いのでしょう」

藍衣には聞こえないよう、小声で話すふたり。そして一葉が深刻な声で黎士に耳打ちした。

「でも青木様が入院していたのは、もう一年も前のことよ」

頭を殴られたような酷いショックを受けた。藍衣の中で一年分の記憶が欠落している?

「もっと詳しい検査が必要ね。明日の朝、脳外の先生を呼んで治療方針について話し合いましょう」

一時的に記憶が混乱しているだけかもしれない。まずは時間をかけて、体を休めるところから始めなければ。

――頭ではわかってはいても、平静ではいられなかった。



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