天才外科医の密かなる執愛~傾国の微笑は運命を耽美に狂わせる~

それから一週間、藍衣は入院を続けたが、記憶が戻ることはなかった。

藍衣への接触を禁じられている黎士は、検査の様子を遠目から見つめることしかできなかった。

健忘以外に障害が見られなかったのは不幸中の幸いと言えるだろう。運動機能や認知機能に問題はない。

ただ一年分の記憶だけが綺麗に丸々抜けていた。黎士との出会いから想いを通わせるまでの記憶が、すべて消えてしまっていた。

(ふたりで過ごした時間や愛し合った過去が事実でも、藍衣の心からなくなってしまえば、それはなかったものと同じだ……)

大切に育んできたものすべてが一瞬で崩れ去る絶望。残酷なのは、藍衣はそれらが存在したことすら覚えていないこと。

(こんな酷い仕打ちがあるか……?)

これは多くの人間の人生を狂わせてきた報いなのだろうか。

加えて予想外だったのは、郷一郎が娘たちを無理やり連れ帰ってしまったこと。今後は自宅療養するからと半ば強引に退院させてしまったのだ。

藍衣と会う手立てすらなくなってしまった。




入れ替わるように、藍衣の祖父である貞平がロイヤルフロアに入院した。

心臓に持病があり、これまで自宅療養を続けてきたものの、とうとう入院が必要なまでに病状が進行した。

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