天才外科医の密かなる執愛~傾国の微笑は運命を耽美に狂わせる~
なにを気にしているのだろう? 藍衣の言葉の続きをじっと待っていると、彼女はふいっと目を逸らし、言いにくそうに呟いた。

「黎士さんが取り戻そうとしている過去の私は、今の私からすると、自分ではない別の誰かのようで。……黎士さんは『彼女』のことばかり見ているな、と」

(それは、嫉妬か……?)

過去の自分を別人と捉えて、架空の『彼女』に嫉妬しているのだろうか。

(〝今の私を見て〟――の解釈で合っているよな?)

その感情は嫉妬と呼ぶには充分な熱を持っている。

藍衣の言動から確かな恋の芽を感じ取り、じんと胸が温かくなった。

ああ、大丈夫だ。たとえ過去の記憶が完全には戻らなくても、ちゃんとふたりの間で愛は芽生え始めている。

安堵したら、不覚にも目に涙が滲みそうになった。絶望的な状況下で無力さを噛みしめながら眠る藍衣を眺めていた、あのとき以来の涙だ。

だが、彼女の前で泣くのはあまりにもみっともない。斜め上を向きごっくんと、息とともに涙をのみ込むイメージで堪える。

心を落ち着けると、隣に座る彼女に向き直った。

「藍衣。そろそろ、過去になにがあったかを話そうと思う」

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