天才外科医の密かなる執愛~傾国の微笑は運命を耽美に狂わせる~
「今すぐ婚約者から妻になってほしい」

彼女は驚きからか呆然としていたが、ようやく黎士の本気が伝わったようだ。頬を赤く染めてこくりと頷いた。

「はい。……私を、黎士さんの妻にしてください」

ああ――と黎士は大きく息をつく。彼女が記憶を失って、もう一年半が経つだろうか。

長い長い片想いがようやく報われた。

彼女の頬に手を伸ばす。濡れた長い髪をかきわけ頬に手を添え、ゆっくりと引き寄せた。

彼女は今度こそ戸惑うことなく、黎士からのキスを受け入れる。目を閉じて、少しだけ顎をあげ、わずかに唇を開いた。

「愛してる」

黎士が呟きとともに唇を重ねると、引き寄せ合う力が加わり、隙間なく吸い付いた。

かつて愛し合っていたときを思い出す、心地のよいキス。

記憶は消えてしまったのに、体はしっかりと覚えているのだから不思議なものだ。

数秒ほど重ね合わせたあと。ゆっくりと唇を離すと、彼女が「あの……」と切り出した。

「まだ、体の関係はないようなことを言ってましたよね。……あれは本当ですか?」

「ああ。心の準備に手こずっていて。主に藍衣の方が」

冗談混じりに答えると、彼女は「うっ……」と呻いた。

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