天才外科医の密かなる執愛~傾国の微笑は運命を耽美に狂わせる~
当の彼は藍衣を吸い込んだままウトウトしている。長い睫毛、きめ細やかな白い肌。美しく無垢な寝顔に毒気を抜かれる。

「お部屋で寝ましょう。体が痛くなっちゃいますよ?」

「ん……このままでいい……」

「私ごとお部屋に行っていいですから」

「……ほんと?」

彼が薄目を開ける。瞼の隙間から潤んだ目が黒曜石のようにつるりと輝いて藍衣を見つめている。

「お見送りします」

「見送りだけ? 一緒には寝てくれないのか?」

「私、これからお仕事ですもん」

「午前休しちゃおうかなあとか、そういう選択肢ない?」

捨て置けない目と蕩甘い声でおねだりしてくる。だめだ、その顔は人をダメにするやつ。

「ありえません」

「だよな。わかってた。藍衣は真面目だから」

がっくりと肩を落とす黎士。そんなしょんぼりした顔をされたら、罪悪感が湧いてしまう。

「……部屋までぎゅってしてていいですから」

なんとか折衷案を捻り出すと、黎士は満足したように藍衣をうしろから抱きしめた。

負担にならないギリギリの重さでのしかかってきてじゃれつく。

「ほら、ちゃんと歩いてください」

< 190 / 252 >

この作品をシェア

pagetop