天才外科医の密かなる執愛~傾国の微笑は運命を耽美に狂わせる~
だが、まだ黎士はあきらめていない。今も必死に心臓マッサージを続けている。ただ見ているだけの藍衣が先にあきらめて泣くわけにはいかない。

亜嵐が「大丈夫、大丈夫だ」と繰り返し、震える藍衣の肩を撫でた。

しかし、黎士らの処置も虚しく、そのまま貞平は帰らぬ人となった。



通夜は翌日、近親だけでしめやかに営まれた。貞平の兄弟はすでに亡くなっており、子どももいないため、実子である一葉や郷一郎、その子どもである藍衣と亜嵐が参列した。

(朱璃お姉ちゃんは……やはり来られなかったのね)

今も療養中だと郷一郎から聞いている。

藍衣の婚約者ということで黎士も参列する予定だったが、運悪く緊急オペが入ってしまい、そちらにかかりきりだ。

花々に囲まれた荘厳な祭壇で、藍衣はお経の響きに耳を傾け、手を合わせる。愛しい祖父への想いとともに、黎士への心配が頭をよぎる。

(黎士さん……ショックを受けていたな)

貞平に結婚の報告ができなかったことを、黎士は悔やんでいる。『亡くなる前に安心させてやりたかった』と呟いた声は、わずかに震えていた。

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