天才外科医の密かなる執愛~傾国の微笑は運命を耽美に狂わせる~
呼びかけると、黒い高級車の前にいた郷一郎がゆっくりと振り向いた。

「藍衣。来てくれたのか」

嬉しそうに笑う郷一郎。その表情を見て藍衣はホッと胸を撫で下ろした。

避けられているだなんて杞憂だった。きっと父は自分を案じ、家を出た娘の負担にならないように振る舞っていた、それだけだったのだ。

「よかった。お父様と直接話がしたくて」

藍衣が彼のもとに駆け出していくと。

「私の方こそ。藍衣とたっぷり話がしたかった」

そう言って郷一郎は、これまで娘に見せたことのない邪悪な笑みを浮かべた。

普段とは違う父の表情に、藍衣はびくりと体を震わせる。

(なにか、様子が……?)

本能的な恐怖が背中からぞわりと這い上がってきて、足を止めた。

「待ち伏せる手間が省けて、本当に助かったよ」

その言葉とともに、背後からやってきた何者かに腕を掴まれた。抵抗できないように、後ろ手に拘束される。

「な、なにを……!?」

首を捻ると、そこにはスーツを着た男性がふたり。顔に覚えはなく、藍衣が知る郷一郎の秘書や使用人たちではなさそうだ。

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