天才外科医の密かなる執愛~傾国の微笑は運命を耽美に狂わせる~
「あの目障りな父がようやく死んだ。しかも、お前はまだ籍を入れていないそうじゃないか。私にとって都合のいいことばかりだ」

まるで気が触れたかのように、くつくつと喉の奥から不気味な笑い声を漏らす。

いったいなにが起きているのか、なぜ自分が拘束されているのか、まったくわからない。

「大人しく車に乗れ」

「お父様、これはどういう――」

「お前には今度こそ、正しい相手と結婚してもらう」

男たちの手によって、背後に停まっていた黒いバンの後部座席に強引に連れ込まれる。郷一郎はその様子を見守りながら、忌々しく吐き捨てた。

「まったくお前という娘は、顔が綺麗なだけの男に二度もたぶらかされおって。だが今度こそ好き勝手は許さん。朱璃が売り物にならなくなった今、お前の結婚にすべてがかかっているのだから」

(売り物……?)

信じられない言葉に頭が真っ白になる。あの優しい父親が、娘を『売り物』と呼んだ……。

なにかの間違いであってほしい、そんな気持ちと目の前の現実がかみあわず、眩暈がする。

(いったい、なにがどうなっているの?)

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