天才外科医の密かなる執愛~傾国の微笑は運命を耽美に狂わせる~
「黒芭さんは苦労してらしたからなあ。せっかく稼いだ金を息子さんが食いつぶしていくっていうんで。あれで寿命が縮まったんでしょうなあ」

藍衣の父親については、貞平本人から『手に負えない愚か者』とは聞いていたが、周知の事実らしい。「そうでしたか」と知らなかった振りでやり過ごす。

「確か借金が五億でしたかな。黒芭さんが立て替えているのだとか」

「それはそれは。苦労されたでしょうね」

「……ですがね。私、知っているんです。本当は五億どころじゃないそうで」

黎士がぴくりと眉をひそめ「え?」と漏らす。

「私、不動産事業をやっておりましてね。その伝手で聞いたのですが――」

彼から知らされた事実は、表情の乏しい黎士でさえぎょっと目を見開くものだった。

まさかそのせいで藍衣は連れ去られたのではと怒りが湧き上がる。

一刻も早く藍衣を探しにいきたい――その想いが幸運にも黎士の神経を研ぎ澄まし、手術への集中力が跳ね上がった。




七時間にも及ぶ手術が無事に成功し、黎士はその足で統括部長の執務室に向かった。

< 205 / 252 >

この作品をシェア

pagetop