天才外科医の密かなる執愛~傾国の微笑は運命を耽美に狂わせる~
かといって、軽率にその話題を出すのもよくない。相手がどんな反応をするかわからないからだ。

もしかしたら逆上して怒り出すかもしれない。

(まずは様子を見るところから)

じっと見つめていると、警戒されていると気付いた黎士が、わずかに目を見開いた。

「もしかして、乱暴でもされると思ってる?」

黎士が藍衣の顔に手を伸ばす、その手は触れることなく眼前で止まったが、恐怖心は抑えきれず、つい体が強張ってしまった。

黎士が、見るからにがっかりした顔をする。

「なにもしない」

両手を掲げ、降参のポーズで一歩、二歩と後ずさる。

「藍衣が嫌がるなら近づかない。寝室だって、ちゃんと別に用意してある」

そう言って距離を置いて靴を脱ぎ、玄関を上がった。

(藍衣……)

自然に名前を呼ばれたことに驚いた。そりゃあ、これから結婚しようと言うのだから名字はおかしいとしても。

(……なんだかすごく自然だった)

妙な気分だが、理由をうまく説明できない。

背中を向けて廊下を歩く黎士だが、ふと足を止めて振り向いた。

「療養中と聞いている。介抱する人間が必要か?」

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