天才外科医の密かなる執愛~傾国の微笑は運命を耽美に狂わせる~
「過去の記憶の手がかりになるものもすべて消した。最も高値で藍衣を娶ってくれる資産家が現れるのを待って、結婚が決まるその日まで、わざわざ偽の医師まで雇ってお前を部屋に閉じ込めてきた、なのに――」

ダン、と足を踏み鳴らして苛立ちをあらわにする。

「忌ま忌ましい我が父が、お前の身柄を勝手にあの男に売り渡した……! 私の計画は滅茶苦茶だ!」

藍衣の目から涙がぼろぼろとこぼれ落ちる。

二十八年間、父親から愛されていると信じていたのに。かけられた優しい言葉や笑みはすべて偽りだった。

過保護なまでの庇護――あれは愛情などではなく、自分を商品として見ていたからだったのだ。

「ああ……」

堪えきれない悲しみから嗚咽が漏れる。

そして今さらながら、亡き祖父がなぜ黎士のもとに嫁げと命じたのかを理解した。

血も涙もない政略結婚から藍衣を救い出し、本当に愛する人のもとへ嫁がせようとしてくれたのだ。それは祖父の密かな、そして確かな愛情だ。

父という存在の喪失と、祖父の絶対的な愛、相反する感情が混ざり合う。

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