天才外科医の密かなる執愛~傾国の微笑は運命を耽美に狂わせる~
「だったらお前が嫁ぐしかない。安心しろ、オークションは順調だ。お前の結婚相手はじきに決まる」

それだけ告げると郷一郎は、藍衣を部屋に戻すようスーツ姿の男たちに命令した。

再び部屋の中に押し込められる。藍衣はよろよろとベッドに向かい、縁にしゃがみ込んで突っ伏した。

事故が起きたあの日の記憶が少しずつ鮮明になり、胸が締め付けられるように痛む。

あの日、ロイヤルフロアに繋がる通路で、朱璃が黎士に拒まれる様子を藍衣は物陰から見ていた。

その会話の中で、姉に縁談があることを知った。父から持ちかけられた縁談を断ったことを思い出し、皺寄せが姉に向かったのではないかと慌てて朱璃のあとを追いかけたのだ。

辺りを探し、ようやく見つけた歩道橋の上で言葉を交わした。

(姉さんは自分が犠牲になったにもかかわらず〝黎士さんと別れろ〟とも〝縁談を受けろ〟とも言わなかった)

それどころか『ようやく藍衣にも好きな人ができたのね』と嬉しそうに笑ったのだ。

藍衣の遅い初恋を祝福してくれた。

『藍衣に素敵な彼氏ができて嬉しいわ。相手が黎士さんなのは、ちょっぴり羨ましいけれど、私に付け入る隙はないようだし……』

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