天才外科医の密かなる執愛~傾国の微笑は運命を耽美に狂わせる~
「父のパソコンに監視ツールを仕込んだの。父が私たちを売ろうとしたら、すぐに気付けるように」

こともなげに言われて絶句する。そういえば朱璃は以前にも病院のサーバーに侵入していた。この程度は造作もないらしい。

いや、それ以前に、自分たちが売られるとわかっていてこうも平常心でいられることの方が驚きだ。きっと彼女は何年も前から危機感を抱き続けているのだろう。

「私は事故を利用して、病人を演じることで縁談を回避した。私付きの使用人を抱き込んで、気が触れた振りをしていたの。さすがに父も突然叫んだり泣いたりする女は売れないと思ったみたい。でも代わりに矛先が藍衣に向かってしまった」

なるほど、と黎士は目を細める。

(藍衣がろくに検査も受けないまま〝絶対安静〟と銘打って家に閉じ込められていたのは、そういう理由か)

機を見て藍衣に縁談をさせようと狙っていたのだろう。

朱璃はちらりと黎士に視線を向け、苦笑する。

「事故以前から、父はあなたの存在を疎んでいたみたい。私たち姉妹をそれぞれ資産家に売ろうとしていたのに、藍衣はあなたの存在を理由に結婚を拒んだ。もしも藍衣が記憶を失わなかったら、あなた、殺されていたかもしれないわね」

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