天才外科医の密かなる執愛~傾国の微笑は運命を耽美に狂わせる~
「働いていた頃にいっぱい稼いでたからね。父の前ではブランド物ばかり買う浪費家の振りをしていたから、私にそこまで貯金があるとは思わなかったみたい。残高を調べられなくてよかったわ」

意外な狡猾さに、黎士は肩を竦める。

元気に喋っていた朱璃だが、ふと目を伏せて声の調子を落とした。

「でも、そうしている間にお祖父様が亡くなって、藍衣と黎士さんの結婚がうやむやになった。藍衣を守る人がいなくなってしまった……」

「それで今度は藍衣が狙われたってことか。……ふざけているな」

つまり、藍衣が屋敷に囚われていたあの頃の状況に逆戻りしたということだ。

怒りではらわたが煮えくり返っている黎士に、朱璃はおずおずと目線を上げた。

「……私のことは責めないの? 私はこの一年半、藍衣を隠れ蓑にして別邸にこもっていたわけだけど」

「聞いていていい気分にはならないが、君の状況を考えれば責めるのが正しいとも思えない。なにより、悪いのは君らの父親だ」

情けをかけられて、むしろ後ろめたさを強めた朱璃は暗くうつむく。

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