天才外科医の密かなる執愛~傾国の微笑は運命を耽美に狂わせる~
第八章 本当に美しいもの
部屋に閉じ込められたまま、また一晩明けた。
食事だけは三食きちんと出てくるが食欲はない。かといって姉を人質に取られている手前、自暴自棄にもなれず、倒れない程度に手をつける。
昼を迎える頃、部屋の外が騒がしくなり、身構えているとドアが開いた。
ひと際立派なスーツに身を包んだ郷一郎が入ってくる。
「お前の結婚相手が決まった。着替えろ」
そう言って使用人たちが持ってきたのは派手な紅色の着物だ。藍衣を縁談相手に引き渡すつもりなのかもしれない。
「大人しく言うことを聞く代わりにひとつだけ教えて。朱璃姉さんはまだあの別邸にいるの? 元気にしている? ちゃんとご飯を食べてる?」
政略結婚に抗う手段を一晩中考えていたが、最終的には姉を連れて姿をくらますのが一番ではないかという結論に至った。
隙を見て逃げ出し、朱璃を迎えに行くにしても、彼女がまだあの別邸にいなければ打つ手がない。
朱璃の居場所を探るため、体の具合を尋ねる振りをして聞き出そうとすると、郷一郎はわずかに考えたあと、にやりと笑った。