天才外科医の密かなる執愛~傾国の微笑は運命を耽美に狂わせる~
「わざわざ遠くまで足を運んでいただき感謝いたします。息子もとても喜んでおりまして――」

と説明しつつも息子の姿はない。話によると、とても内向的な性格で部屋にこもっているのだとか。

名高い企業の経営者である篠森は、都心に本邸を構え、妻や長男と一緒に暮らしているそうだ。この家は次男専用の屋敷で、使用人数名と住んでいるのだとか。

説明の最中、次男のことを何度か『お恥ずかしいことに』と説明していたところを見るに、体裁の悪い次男を厄介払いするための屋敷のようだ。

「この通り、息子は引っ込み思案でなかなか結婚相手が見つからず困っておりました。格式高い黒芭家のご令嬢が縁談に応じてくれてほっとしています。……正直、結納金をどれだけ支払ってでも、嫁いできていただきたい」

そういう事情があるのかと、藍衣は無表情のまま納得する。

郷一郎は「こんな娘でよければどうぞどうぞ」とほくほく顔だ。

「これでようやく、次男は良家の嫁をもらい落ち着いたと、周りに自慢ができます」

さっそくと、背後に控えていた執事が小切手と婚姻届を持ってくる。この場で婚姻を取り決めてしまおうという算段のようだ。

「さあ、藍衣」

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