天才外科医の密かなる執愛~傾国の微笑は運命を耽美に狂わせる~
このまま白薔薇に入院して検査を受けるように勧められたが、監禁中も食事や睡眠、入浴ができていたため断った。
なにより、一刻も早く黎士と一緒に自宅に戻りたかった。体の無事を確かめるよりも、黎士のそばにいられるという心の安息を得たかったのだ。
夜遅く、ようやく自宅に戻ってこられた藍衣と黎士。気が抜けたら着物の重さと窮屈さがずっしりと体にのしかかってきて、激しい疲労に見舞われた。
廊下を歩く足取りの重さに気付いた黎士が、藍衣の肩を支える。
「大丈夫か。疲れただろう」
「ありがとうございます。でも疲労より、気が抜けた方が大きいのかも」
藍衣はリビングのソファに座り込み、大きく息をつく。
「婚姻届を書くように言われて、そのまま署名するしかないと思っていたから。黎士さんが来てくれたとき、本当に嬉しくて」
あの瞬間に得た幸福感は、きっと一生忘れないだろう。
黎士はふっと表情を緩めてソファの隣に腰を下ろすと、藍衣の額を撫でた。
「俺もだ。ようやく藍衣のもとに辿り着けて嬉しかった。もう二度と離すまいと思った」
そう言って額に口づけする。
「……もう離さないでくださいね」