天才外科医の密かなる執愛~傾国の微笑は運命を耽美に狂わせる~
はっきりと聞こえたにもかかわらず尋ね返したのは、まるでこちらの性格を把握しているかのような口ぶりだったからだ。

確かに昔は、周りの人間からよく『頑張りすぎ』『ひとりで抱え込みすぎ』などと叱られることはあったが……どうして彼がそれを知っているのか。

「言っただろ。俺は藍衣に使用人になってほしいんじゃない」

「そんなつもりでは……。家事がリハビリになると思ったので」

自分の現在の体力を知るためにも、家事がちょうどいい。家の中で動くことさえままならないようでは、外に出て働くのは難しい。

「それに、働いて帰ってきた人を労わるのは当たり前です」

相手が夫であれ仇であれ、懸命に働いて帰ってきた人に食事を勧めたりフルーツを剥いたりするのは、人として当然だと思う。

藍衣の反論に彼は苦い顔をする。

「体力が戻ったら、以前のように医療や介護の仕事に就こうと思っているんです。今は体力をつけるためにも家事をこなそうと――」

すると、不意に彼が手を伸ばしてきた。壊れ物でも扱うかのような優しい手つきで頬に触れられ、思わず鼓動が跳ねる。

加えて、磨き上げた黒曜石を思わせる艶やかな濡羽色の瞳がじっと藍衣を見つめてきて、無意識のうちに呼吸が浅くなった。

「わかった。藍衣のやりたいことを邪魔したりしない。だから焦るな。藍衣はすぐ突っ走って無理をする」

「どうして――」

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