天才外科医の密かなる執愛~傾国の微笑は運命を耽美に狂わせる~
統括部長であり伯母である一葉と、誰もいない夜のコンシェルジュルームでよく雑談を交わしたっけ。

その会話に、たまに白薔薇の医局から診察に来た医師も交じっていた。呼んでもないのにふてぶてしくコンシェルジュルームに押し入ってくる、長身の白衣の男性だ。

(あれ……?)

顔と名前が思い出せなくて不思議に思う。仕事で世話になった人の顔をそうそう忘れるとも思えないのだが――なにかがおかしい。

(この記憶って、まさか……)

事故で失ってしまった、あの一年間の記憶?

そう感じた瞬間、視界がぐらりと揺れた。

「藍衣……!」

一瞬だけ意識が飛んで、気がついたら黎士の腕の中にいた。鬼気迫る声で名前を呼ぶ彼を見て、自分が倒れたのだと悟る。

「……っ、ごめんな、さい。……大丈夫、少し疲れただけで」

突然様々なことを思い出したから、脳が悲鳴を上げたのかもしれない。

「そのまま、じっとしてて」

黎士はそう念を押すと、長身を屈めて藍衣の膝裏に手を回し、ひょいっと横向きに抱き上げた。

「れ、黎士さん!」

「緊急事態だ。許せ」

そう命令して、黎士は自身の部屋に運び込む。

< 41 / 252 >

この作品をシェア

pagetop