天才外科医の密かなる執愛~傾国の微笑は運命を耽美に狂わせる~
黎士の表情が曇る。

視線を逸らし、苦々しい顔をしたあと、「そうだ」と答えた。

濡羽色の瞳が、凛と藍衣を見つめる。

「俺はあの人を傷つけた」

藍衣は愕然と目を見開く。その答えを予想していたにもかかわらず酷くショックを受けたのは、心のどこかで『違う』と言ってもらえるのを期待していたからだろう。

力を失った藍衣の手から、彼の腕がずるりと抜け落ちる。

「……あなたは姉に、なにをしたんですか?」

その返事は来なかった。黎士は固く口を閉じたまま背中を向ける。

「しばらくそこで休んで」

「でも――」

「リビングにいる。落ち着くまでそこにいろ」

冷静で平坦な声。でもその奥に悲しみとも苛立ちともつかない、かすかなブレを感じ取って藍衣の感情も揺れる。

説明も言い訳もしてくれなかった。ただ罪を受け止めるかのように、淡々と事実を口にした。

せめてなにが起きたか教えてくれたなら、感情のやり場もあっただろう。なにもわからずじまいでは、怒ることも罵ることも嘆くことすらできない。

(あなたは姉さんになにをしたの?)

かすかに頭が痛む。疲労か重なったためか、あるいは感情が高ぶったせいか。

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