天才外科医の密かなる執愛~傾国の微笑は運命を耽美に狂わせる~
「あの。引き続き安静にしていた方がいいのでしょうか。これまで診てくださっていた野々村先生からは、極力刺激を減らすように言われているのですが」

藍衣の質問に、男性医師が神妙な顔で答えた。

「はっきりとした不調がないようであれば、安静にする必要はありませんよ。軽い片頭痛や、眠れないといった症状は、外傷にかかわらず誰にでもありますから」

「気にしすぎる必要はない。そのせいで部屋から出ないという方が、よほど体に悪い」

黎士も言い添える。藍衣が「仕事もできますか?」と尋ねると、ふたりは頷いた。

「慣らしていく過程は必要だが、様子を見つつ普段の生活に戻って問題ない」

黎士の口から待ち望んでいた言葉が出て、藍衣は目を輝かせる。

もう家の中に閉じこもる必要はない、以前のような暮らしに戻れる――そう思った途端、胸に希望が膨らんできた。

しかし、だとするとなぜ野々村は藍衣に安静を言い渡したのだろう? 疑問が残る。

同じ疑問を感じているのか、男性医師は腑に落ちない顔で顎に手を添えた。

「逆に、かかりつけ医が絶対安静と言ったならば、どういう初見でその判断に至ったのか、聞いてみたくはありますね」

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