天才外科医の密かなる執愛~傾国の微笑は運命を耽美に狂わせる~
所見についてはカルテを見ればわかるのではないだろうか。そのときの症状くらいは記録に残してありそうなものだが……。

「野々村先生に直接伺うことはできないのでしょうか? 今日はいらっしゃらないようですが……」

思えば、野々村をこの外来棟で見た記憶がない。救急搬送された際には、別の医師が処置してくれた。

もしかして往診専門の先生なのだろうか? ……白薔薇で往診のために医師を雇っているなど、聞いたことはないが。

いっそう怪訝に思っていると、黎士が躊躇いがちに切り出した。

「藍衣を担当していた野々村って医師。遡って調べてはみたんだが、この病院には存在しない」

「え……?」

「僕もずっとここにいますが、そんな名前の医師は聞いたことがありませんね」

藍衣は眉をひそめて瞬きを繰り返した。

白薔薇から往診に来てもらっていると、確かに父はそう言っていたはずなのだが。

「では……カルテは?」

「藍衣が事故にあったとき以来、更新されていない。……あれから、どこかの病院でMRIや脳波の検査はしたか?」

「いえ。往診のみです……」

黎士は呆れたような表情を見せたあと、そっと額に手を当てた。

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