天才外科医の密かなる執愛~傾国の微笑は運命を耽美に狂わせる~
中には一葉お気に入りの高級茶葉が入っていると、藍衣は知っている。昔もよく業務後にこうしてお茶をいただいたものだ。

ティーポットにお湯を注ぎながら、一葉が尋ねてくる。

「昔のこと、少しは思い出せた? 一年近く記憶が抜けていると聞いているけれど」

「はい……相変わらず、一昨年の春頃から事故に遭うまで、丸一年分、抜けている状態で」

「一昨年の春っていうと……ちょうど滝沢くんが白薔薇に来て、ロイヤルフロアに出入りするようになった頃よね。じゃあ、彼のことも思い出せない?」

「え?」

藍衣は驚いて黎士を見る。彼はなに食わぬ顔で藍衣の視線に応じた。

「初対面だと……おっしゃいましたよね?」

「藍衣が覚えていないなら、初対面のようなものだろ」

横暴な理論に一葉が「極論ね」と苦笑する。

つまり、会ったことがあるということか。彼がしれっと嘘をついていたことがわかり、呆気にとられる。いや、彼の理論上は嘘とは言えないのだが……。

「黎士さんは私を知っていたってことですね?」

「ああ。でも俺だけ知ってたところで意味がない」

「それは『初対面じゃない』って説明すれば済む話では!?」

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