天才外科医の密かなる執愛~傾国の微笑は運命を耽美に狂わせる~
ちらりとうしろを見れば、黎士はふたりの邪魔をしないようにと扉の脇で腕を組んで佇んでいた。

(どうして彼のもとに嫁がせたのかは、さすがにこの場では聞きづらい……)

だが、貞平の方も藍衣がなにを知りたいのか薄々察しはついているようだ。手を取りながら「藍衣」と呼びかけた。

「私はただ、藍衣の幸せだけを願っている」

「お祖父様……」

歳を重ねてもなお真っ直ぐで力強いその瞳を見て、この婚姻がただの横暴ではないと悟る。

(お祖父様には、なにか意図がある)

貞平は藍衣の幸せのために決断したのだろう。それが知れただけでも充分だ。

軽く雑談をしたあと、あまり祖父を疲れさせても悪いと、ふたりは早々に病室を出た。

ロイヤルフロアの玄関を出たところで、藍衣は隣の黎士に向かって、少しだけ強い口調で言う。

「私の記憶がない一年の間でなにが起こったのか、すべて教えてください。それから、あなたと祖父の関係についても」

ここまできたら観念してすべてを説明してくれる――かと思いきや。

「嫌だ」

黎士が子どもみたいなことを言って視線を逸らしたので、ぎょっとした。

「ど、どうしてですか!?」

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