天才外科医の密かなる執愛~傾国の微笑は運命を耽美に狂わせる~
真っ先に眠ってしまった自分が言うのもなんだが、少々不用心だと思う。一応、バッグの中を覗いて、なにか盗まれていないか確認する。

そんなことをしているうちに、彼の方も目を覚ましたようだ。この状況に驚いたらしく、藍衣とまったく同じリアクションをする。

「うわ……しまった。寝落ちした……」

額に手を当てて、覚醒を促すように頭を振る。腕時計を見て「十五分か。……三時間とか経ってなくてよかった」と安堵の息をつく。

「藍衣。少しは体、休まった?」

「はい。ぐっすり眠りました。……夢を見るくらい」

黎士がのそりと立ち上がり、手を差し出す。

「夢って、どんな?」

「えっと……」

確か、花壇を作る夢――あまり詳しくは覚えていないけれど、自分ひとりではなく、誰かがそばにいて手伝ってくれた気がする。

「……まあ、夢って覚えてないことの方が多いよな」

藍衣を助け起こしながら、黎士はそう言って自己完結したようだった。

「夢は記憶の整理を担っているらしい。たくさん夢を見ているうちに、藍衣の記憶も少しずつ戻っていくかもしれない」

「だと、いいですね……」

そうすれば、黎士との記憶も戻るかもしれない。わざわざ婚約者に自分を指名してきた奇特な人。そして、姉となんらかの確執を持つ人。

彼がいったいなにを考えているのか、それが明らかになれば、もう少しこの胸のもやもやも晴れる気がした。



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