天才外科医の密かなる執愛~傾国の微笑は運命を耽美に狂わせる~
愕然とした表情で後ずさったあと。

「きゃあああ!」

激しい悲鳴をあげられ、藍衣は凍りつく。黎士が藍衣を守るように反射的にかき抱き、うしろに下がらせた。

「朱璃……姉さん……?」

呆然とする藍衣。朱璃はぶるぶると首を振りながら二歩、三歩と廊下を後ずさっていく。

黎士を怖がっている? ……いや、違う。朱璃の視線は黎士だけでなく藍衣にも注がれている。妹である自分すらも怯える対象なのだと思い知らされる。

「姉さん……私……」

追いすがろうと手を伸ばすが、「刺激してはダメだ」と黎士がその手を掴んで押し留める。

朱璃は「ごめんなさい……ごめんなさい……」と繰り返すと、廊下を抜けてリビングへと飛び込み、ドアを閉めた。

「待って!」

黎士を振り切り、家の中に向かって駆け出す藍衣。

「待つんだ、藍衣!」

制止を聞かずリビングのドアに手をかけると、ドアノブはびくともしなかった。朱璃が内側から押さえているのだろう。

ドアにはめ込まれたすりガラス越しに、震える彼女の肩が見える。

「姉さん、お願い。話をさせて」

「ごめんなさい……藍衣……すべて私が悪いの……」

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