天才外科医の密かなる執愛~傾国の微笑は運命を耽美に狂わせる~
「『あの人を傷つけた』って、失恋させたって意味ですか? もっとなんかこう……無理やり襲ったとか、酷い言葉を浴びせたとか」

「そんなことするわけないだろ」

腕を組んでやや不機嫌になる彼。

(いや……もしそれだけだとしたら、彼に非はないのでは?)

むしろ迷惑をかけていたのは姉の方だ。

「彼女を突き放した一件のあとすぐ仕事に戻ったんだが、それからしばらくして藍衣とお姉さんが救急搬送されてきた。近くの歩道橋の階段から、ふたりして落ちたって」

藍衣はごくりと息を呑み、唇を引き結ぶ。

ふたりが階段から落ちる直前に、黎士は朱璃を振っていた。その一件が事故のきっかけになった可能性はあるが――。

「事故が起きたとき、黎士さんは病院にいたんですか?」

「ああ、院内にいた。搬送の連絡を受けて救急に向かい、処置した」

黎士は事故とは直接関係がないようだ。やはり『仇だ』と責めるのはお門違いである。

「……黎士さんって、すごく言葉足らずです」

「たまに言われる」

『よく言われる』の間違いでは。今に限ってではなく、彼は全般的に説明が足りない。

< 96 / 252 >

この作品をシェア

pagetop