天才外科医の密かなる執愛~傾国の微笑は運命を耽美に狂わせる~
目の前にある長い睫毛がぱちりと上下する。呆然とする彼に、藍衣は大真面目に言い聞かせた。

「あるとすれば、その人たちが黎士さんに付きまとって迷惑をかけたから罰が当たっただけです。自分のせいだなんて絶対に思わないで」

手に力を込めて念を押すと、ようやく黎士が我に返ったような顔をした。

「……ありがとう。藍衣」

そう呟いて、穏やかな笑みを浮かべる。

「そうだな。俺のせいじゃない」

冷静に受け止めてもらえたようなので、藍衣は手を放す。黎士は憑き物が落ちたみたいに安らかな表情をして、ソファにもたれた。

(そうよ。どう考えても黎士さんは悪くない。むしろ、姉さんを傷つけたのは私かもしれない。だって、事故のときに一緒にいたのは私だもの……)

朱璃が必死に謝罪してきたことを考えると、藍衣が直接的になにかをしたわけではないのだろうけれど、なにげない言葉で追い詰めてしまった可能性がないとは言い切れない。

藍衣はグラスのスポーツドリンクをひと口飲んで息をついた。

どうすれば以前のような仲のいい姉妹に戻れるのだろうか。

そんな日が訪れるのは、ずっと先のように感じられた。



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