さようなら、お別れしましょう
 涙ぐむジェレンの姿を見て、申し訳ない気持ちになった。
 私はドーヴハルク王宮で裕福な生活を送っておらず、ジェレンのほうが令嬢としての教育を受けていたと思う。
 他の王女たちや妃たちから、嫌がらせを受け、薪運びや水汲みは当たり前。
 父は私が暗いうちから働いているのを目にしても、一度も私をかばってくれなかった。
 弱い人間は容赦なく切り捨てる。
 それが、父――ドーヴハルク王である。

「ジグルズ様は親切ですね」
「レフィカ様! ジグルズ様は親切なだけじゃなく、かっこいいんです! 剣の稽古を見ていましたが、かなりの腕前ですよ!」

 ジェレンが熱弁すると、ハリルもそれに加わった。

「そうだよ。ジグルズさまは本当に親切なんだ。それに強くて、かっこいいし。おれも大きくなったら、ジグルズさまみたいな男になるんだっ!」

 老若男女問わず、ジグルズ様は好かれていて、人望がある。
 町役場の人たちも、ジグルズ様が来ただけで笑顔になった。
 でも――

「ハリルは俺のようになるな」

 ジグルズ様は自分自身を否定した。
 ハリルはきょとんとした顔して、ジグルズ様を見る。
 それはジェレンも同じで、まさかそんな答えが返ってくるとは思っていなかったようだ。

「ハリルは素直で優しい。お前にはお前のいいところがある」
「本当ですかっ!?」
「ああ」

 ハリルは嬉しそうな顔をし、ジェレンはそれを聞いて微笑んでいた。
 たけど、私は笑えなかった。
 今、ハリルに言った言葉には、別の意味が含まれているような気がしたからだ。
 私はジグルズ様について、ずっと気になっていたことがある。

 ――なぜ、ジグルズ様は王にならなかったの?
 
 ジグルズ様は権力争いに負け、王宮から追われたわけではなく、私のように母の身分が低い方だという話は聞かない。
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