さようなら、お別れしましょう
 ゼリヤは笑い、ベルクヴァイン公爵家の紋章が入った馬車の扉を開けた。
 馬も立派で、たくさん走れそうだ。
 ベルクヴァイン公爵家の紋章が入った馬車は、兵士たちから止められることもなく、王都の門をあっさりくぐれた。
 兵士たちは敬意を持って、紋章に敬礼をする。
 ジグルズ様が助けたのは、王宮で警備していた兵士だけではないようだ。

 ――ここまで尊敬を集めるジグルズ様。そのジグルズ様が王位を捨てた理由はいったいなに?
 
 この疑問は、ジグルズ様に会った時から、つきまとっていた。
 
「ジグルズ様がなぜ王にならないのか、きっとレフィカ様は不思議に思っていることでしょうね」
 
 ゼリヤに自分の心を見透かされて動揺した。
 ゼリヤの言葉を聞いたジェレンは、同感だとばかりにうなずいた。

「私もおかしいと思っておりました。ジグルズ様のような方が王になれば、グランツエルデ王国はますます栄えたことでしょうに」
「そうですね……。私と出会った時、すでにジグルズ様は王にならないと宣言していて、かなり早い時期にそれを決めていたようです」
「まあ……。残念ですこと。もし、ジグルズ様が王であれば、レフィカ様の夫はイーザック様ではなく、ジグルズ様でしたわ」
「ジェレン。ジグルズ様なら【契約】を選ばなかったでしょうから、その『もし』はありえませんよ」

 私が否定したけれど、ジェレンはまだ残念そうな顔をしていた。
 ゼリヤはふふっと笑う。

「レフィカ様はドーヴハルク王国にいた頃から、とても控えめで聡い方だと思っていました。今も変わりませんね」
「そんなことは……。イレーネお姉様が私のそばにいたからこそだと思ってます」
「レフィカ様なら、ジグルズ様がなぜ王にならなかったのか、わかる時がきます。そして、よき理解者となるでしょう」

 ――私ならわかる? そして、理解者になる?

先ほど、ゼリヤは知らないふりをしていたけれど、彼女はジグルズ様が王にならなかった理由を知っている気がした。
 
「レフィカ様。ジグルズ様をよろしくお願いします」
「はい。ベルクヴァイン公爵の補佐官として、精一杯、頑張ります!」

 私が力強くうなずくと、ゼリヤとジェレンは笑顔のまま静かになった。

 ――なにか間違えました?

「……そうですね。頑張りましょう」
「ええ。いろいろと、レフィカ様は頑張ったほうがいいかもしれません」

 どうして、そんな母猫が子猫を見守るような目で!?
 腑に落ちないまま、馬車はベルクヴァイン公爵領へ向かう。
 私の運命を変えるだめの鍵となる場所へ――
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