さようなら、お別れしましょう
「レフィカ様は外見は王族なのに、中身はうちの母さんと同じくらい強いと思う……」

 ハリルの『母さん』とはゼリヤのことである。
 ゼリヤから聞いた話によると、戦争で夫を亡くし、身重のゼリヤを戦場で助けてくれたのが、ジグルズ様だったのだとか――それ以来、ゼリヤはジグルズ様に忠誠を誓い、行動を共にしている。
 ベルクヴァイン公爵家の配下は、ゼリヤのようにジグルズ様に命を救われた人がほとんどだ。
 
「ゼリヤはすごいですよね。剣の腕だけでなく、商人としての立ち回りもうまいですし、王宮に現れた時は、男装の麗人でした。かっこよくて、令嬢たちはうっとりしてましたよ」

 劇場の役者よりも人気があると思った。
 ジグルズ様の配下でも、一番信頼されているのは、ゼリヤではないだろうか。

「母さんは最初から、なんでもできたわけじゃないんだって、おれに言ってました。だから、ちゃんと体を鍛えて、食べ物の好き嫌いをするなって言われてます」
「それは大事な教えですね」

 ハリルは匂いの強い野菜が苦手なようだけど、頑張って食べているのを見たことがある。

「ゼリヤがジグルズ様と出会ったのは、ハリルが生まれる前だったんですね」
「うん。子供はおれ一人だよ。ジグルズ様と会った時、おれはまだ母さんのお腹の中だったから……」

 ハリルは運河を眺めた。
 運河には船が多く行き来し、その流れは海へ続いている。
 
「その時の戦争で、おれの父さんは死んだんです」
「そうだったんですか……」
「でも、救われずに死んでいく人もたくさん見てきたから、おれも母さんもジグルズ様に助けられて、幸運だったと思います」
「ハリルは戦場に行ったことがあるんですか?」

 ハリルは小さくうなずいた。

「ジグルズ様はイーザック様が王様になるまで、戦場にほとんどいて、おれは後方の拠点で育てられたんです」
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