さようなら、お別れしましょう
「そのようです。ならず者たちが、ジグルズ様を誘拐しようとしたこともありましたが、勝てた者は一人としておりません」

 強いとは聞いていたけど、ジグルズ様が王都にいたのは成年前の十六歳までのこと。
 その頃からすでに、ジグルズ様は非凡な方だったとわかる。

「ジグルズ様がレフィカ様のそばにいては、近づけません」
「そんなにジグルズ様は、レフィカ様から離れないの?」
「はい。ほとんど一緒に行動なさってます。それ以外は、町役場で働いていて、大勢の人の目があります」

 つまり、素人では近づけない――そう思った時。

「……ほとんど一緒にいるだと?」

 わたくしとベルタは、声がしたほうを同時に見た。
 ベルタは扉を閉め忘れ、そこにいたのはイーザック様だった。

 ――もしかして、とうとう初夜!?

 今の話を聞かれていたかもしれないという可能性を考えるより先に、イーザック様がわたくしの部屋へ訪れたことが嬉しくて、胸の前で両手を握り締めた。

「イーザック様! ベルタの用事は終わりましたの。どうぞ、部屋の中へ入られてくださいませ! ベルタ、あなたは下がりなさい!」
「わざわざ、ベルタを部屋の外へ追い出さなくてもいい」
「そ、そんな、ベルタがいてもいいなんて……わたくし、恥ずかしいですわ……」
「俺の用事はすぐに済む。兄上がレフィカとずっといるというのは本当か?」

 イーザック様の視線は、妻のわたくしではなく、ベルタに向けられていた。
 
 ――気になるのは、レフィカ様? わたくしとの初夜のために訪れたのではないの?

「は、はい……。お二人は親密なご様子でした」
「……レフィカは死ぬ気か?」

 ジグルズ様がいたら、『レフィカ様を殺せない』と言うベルタ。
 その一方で、ジグルズ様がそばにいると、『レフィカ様が死ぬ』と言うイーザック様。
 
 ――どういう意味?

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