さようなら、お別れしましょう
 二人は私が嫁いでからも、恋人同士のままだった。
 イーザック様は、いずれメリアを妻として迎えるつもりでいたから、別れなかったのである。

「イーザック。お前は俺の忠告をことごとく無視してきた。違うか?」
「それは……」

 ジグルズ様は王女を犠牲とするドーヴハルク王国の【契約】にも、反対されていた。
 イーザック様はうつむき、なにも言い返せず、黙っていた。

「今日のお前は誠意を見せに来たのか? それとも、レフィカが浮気をしていると疑い、様子を見に来ただけなのか?」
「俺はメリアを捨てるわけにはいかない。それこそ、誠実ではなくなる。だが、兄上のそばに、レフィカを置いておくのは、危険すぎる」

 イーザック様は迷いながらも、メリアと別れるつもりはないのだと知った。
 そして、ここへ来たのは、私の浮気を疑ってのこと。
 左胸に手をおいた。
 私の心臓に刻まれた【契約】には『妻の不義』がある。
 私に自由はないけれど、イーザック様は違う。
 不公平で不自由な愛に、私は死ぬまで縛られ続けるのだろうか。

「レフィカ、王宮へ戻るぞ」
「王宮へ……戻る……?」
「兄上のそばにいれば、お前は間違いなく兄上に好意を持ち、浮気をするだろう」
「私がジグルズ様に好意を……」

 ジグルズ様の指に絡まった私の髪、大きな手のひら、親しげな笑み――ジグルズ様を嫌いになんてなれない。
 否定できずにうつむいた私の視線の先には、作りかけの町の地図があった。

 ――これも私が誰からも相談されずに、落ち込んでいたのをジグルズ様が気づいて、仕事をくれた……

 好意を持つなというほうが難しい。
 私が黙っていると、イーザック様はムッとした顔をして言った。

「なんだ? 俺と王都へ戻りたくないのか?」
「……まだ相談役としての仕事が残っています。町の地図を作っているんです」
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