さようなら、お別れしましょう
4 冷遇された妻(1)
「別居だなんて、ひどすぎます!」
別居が決まり、さっそく住まいを移す準備を始めた。
私から別居の話を聞いた侍女たちは、大ブーイングの嵐だった。
「なんて冷たい夫でしょうか!」
「一度も会いに来てくれないばかりか、手紙の返事すらないなんて!」
「妻に興味がなくても、返事のひとつくらいできるはずですわ。犬ですら、ワンと言えるのですよ?」
「犬に失礼でしょう。犬は裏切りませんからね」
侍女たちは全員、ドーヴハルク王国から一緒に来た者ばかり。
新しい妻を迎えたことより、私に対する冷たい態度が気に入らなかったようだ。
「最初からおかしいと思ったんですよ。レフィカ様にドレスの一着、アクセサリーの一つさえプレゼントされなかったでしょう!」
「貧乏国ならともかく、グランツエルデ王国は大国。待遇の悪さに違和感はありました!」
――えっ!? そうなの? とてもいい暮らしだと思っていたけど……
私以外のみんなは、待遇の悪いと感じていたようだ。
私だけ『気づいていませんでした』なんて、恥ずかしくて口に出せず、気まずい顔で黙り込んだ。
たしかに私はイーザック様が会ってくれなくて、おかしいと思っていた。
けど、待遇に不満はなかった。
グランツエルデ王国側が、私のために用意してくれたものは、部屋と調度品。
日々の生活に困ったことはなく、食事は三食おやつ付き。
ドーヴハルク人の侍女がいて、ドレス類は実家から持参して、じゅうぶん足りている。
――実家にいた時より、恵まれた生活だったから、わからなかったわ……
私は生まれた時から後宮暮らし。
周りにいる男性は、たまに遠くから見る父のみで、イーザック様が初めて間近で見た男性だった。
しかも、私の母は最下層の侍女で、後見人を持たず、王女といえど、その扱いは侍女同然。
得意なことは機織りと料理、繕い物など――少しも王女らしくない。
頬に手を当て、ため息をついた。
「イーザック様に興味を持っていただくには、王女としての優雅さが足りなかったのかもしれないですね……」
もしくは、女の魅力。
私が魔性の女なら、イーザック様の心を動かしていたに違いない。
「まあっ! なにを弱気な!」
「レフィカ様は十八歳。優雅さが足りてなくても、若さと健康があります!」
私に『そんなことないです! レフィカ様には優雅さがあります!』とは言ってくれない正直な侍女たち……
正直なことはいいことだけど、なんだか複雑な気持ちになった。
死んだ魚のような目で彼女たちを眺めた。
「今さら文句を言っても、仕方がありません。それより、引っ越しを早く終わらせましょう」
そう言ったものの、荷物が多くなかった私の引っ越し準備は、あっという間に終わってしまった。
荷物の少なさに、自分の孤独な身の上を思い知らされた気がした。