さようなら、お別れしましょう
 私の母は父の怒りを買い、後宮を追い出された。
 母を失い、後見人もいない王女が、広い後宮で生きていくには、下働きと同じ仕事をこなし、他の王女より粗末なものを着て、ひっそりと暮らすしかなかった。
 私の境遇はドーヴハルク王国の貴族令嬢以下。
 そんな立場の私が、大国の王妃となった。
 てっきり、遠い小国にでも嫁ぐのかと思っていた。
 それが、大陸でもっとも豊かなグランツエルデ王国。
 父が私の嫁ぎ先を発表をした時、他の王女も妃も呆然としていた。
 嫁ぎ先を全員の前で告げるのは、異例中の異例。
 父は珍しく浮かれており、つい口が軽くなったのだろう。

 ――お父様はなぜ、私をこの国に嫁がせたの? 王女の中でも王女らしくない私を大国へ嫁がせる意味ってなに?

 貴族令嬢のほうが、まだ妃らしく堂々と振る舞えたはずだ。
 イーザック様に『私を愛してほしい』と言えなかったのは、私が王女の中でも最下層の存在で、自分に自信がなかったせいもある。

「荷物を廊下へ! 侍従が運んでくれますからね!」

 私の侍女の中でも、ジェレンという二十歳になったばかりの女性が、大きな声で指示を出す。
 ジェレンはドーヴハルク王国の貴族令嬢である。
 私に足りない教養を教えるため、ジェレンを教育係兼侍女として、私につけた。
 そんなジェレンはてきぱきしていて、とても働く。

「ああ、そうじゃないわ。その箱は後よ。先に身の回りのものを運んでちょうだい」
「ジェレンは頼りになりますね」
 
 私が褒めると、ジェレンは振り返って、同情するような目を向けた。

「レフィカ様。そんな気丈に振る舞わずともよろしいのですよ。新しい妻を前にして、どれだけ傷ついたことでしょう!」

 私よりジェレンのほうがショックを受け、涙ぐんでいた。

「イーザック様には私が嫁ぐ前から、想う方がいたようですし……」
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