さようなら、お別れしましょう
「地図? まだそんなことをしていたのか」
「お言葉ですが、イーザック様。国を支えるのは、どうでもいいと思うようなことの積み重ねなのです」

 政務をこなすイーザック様にとって、私が作った地図は小さな仕事でしかない。
 だから、イーザック様が私に『やらなくていい』と言いたい気持ちは理解できる。
 でも、私は――

「地図があることで、道に迷った人が一人でも救われるのなら、それは価値のある立派な仕事ですわ」

 ジグルズ様が声をたてて笑った。
 
「レフィカが言うように地図は必要だ。イーザック。そういうわけだから、帰るまで、レフィカにやらせてやってくれ」

 イーザック様はなにか言いかけ、ジェレンのほうを見て黙った。
 ジェレンにまた叱られると思ったようだ。

「……わかった」
「全員でやれば、夕方までには終わるだろう。夕方にはリュザール王国からの客人を出迎えなくてはいけないからな。急ごう」

 イレーネお姉様の嫁ぎ先からやってくるお客様――もしかしたら、私の【契約】を無効にする方法を知っているかもしれない人物。

「イーザック、お前も行くだろう?」
「俺は王だからな。船着き場まで行く気はない」
「イーザック様が出迎えれば、お客様もきっと喜ばれますわ」
「俺が出迎えるより、兄上が出迎えたほうが、相手も喜ぶ」

 イーザック様はふんっとそっぽを向いて、面白くなさそうな顔をしていた。
 ジェレンと目があって、イーザック様は慌てていたけれど、ジグルズ様と一緒に行きたくないらしい。

「……わかりました。では、私がイーザック様の代わりにお客様を出迎え、挨拶をします」
「俺の代わりに!?」

 イーザック様は迷っているのが丸わかりだった。
 ジェレンに呆れた顔をされ、イーザック様は悔しそうにしていた。
 以前なら、『勝手にしろ』と言っていたのを考えたら、少しはマシかもしれない。

「ドーヴハルク国王陛下の威厳には、まだまだ遠いですわねぇ」

 ジェレンはそう言ったけれど、父は恐ろしかった。
 グランツエルデ王家のような優しい雰囲気はいっさいなく、私たちを見る目は道具を見る目だった。
 父を裏切れば、どんな仕返しが待っているかわからない。
 でも、私は父に逆らう。
 イレーネお姉様のように、生きて自由を手に入れたい――たとえ、父を敵に回したとしても。
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