さようなら、お別れしましょう
 でも、イーザック様の言い分だと――

『領土の広さと格式は、グランツエルデ王国のほうが上だ』

 ――そんな見栄を張らなくても。

 グランツエルデ王国が大国になれたのは、気候も穏やかで農作物の収穫も安定しており、運河と海があったからだ。
 ジグルズ様は厳しい気候の土地を治めるリュザール王家を尊敬し、自分たちよりも知恵と結束力があるのだと言っていた。
 だから、何度も戦ってきたリュザール王国であっても、ジグルズ様は敬意をこめて『友人』と呼ぶ。
 イーザック様はジグルズ様の話を聞いて、迷っていたけれど、王という肩書と頑固な性格が邪魔をして、『一緒に行く』とは言えなかったようだ。

 ――せっかくの花火とシャルク・ホジャの夜。あと少ししかいられないなら、なおさら暗い気持ちにならず、楽しもう。
 
「ジグルズ様、ありがとうございました」
「うん?」
「お屋敷の人たちの協力のおかげで、帰る前に地図が完成してよかったです」
「ああ。俺のほうこそ礼を言う。短い間だったが、レフィカは俺の想像以上に、よくやってくれた」

 ぐすっとハリルの泣く声が後ろから聞こえてくる。
 運河沿いの道には、ゼリヤとハリル、数人の配下が護衛のため、私たちの後方を歩いている。

「本当に……レフィカ様、帰っちゃうんだ……」
「ハリル、レフィカ様が困るでしょ。いい加減、泣き止みなさい」
  
 周りの護衛たちはハリルをかばった。

「ゼリヤ、ハリルはいつも泣くのを我慢しているんだ」
「お前がいる時くらい泣かせてやれよ」
「あなたたちは、ハリルに甘すぎます!」

 そう言いながら、ゼリヤはハリルの顔を布で拭いてやり、手を繋ぐ。
 今のゼリヤは、男装の麗人でもなく、商人でもなく、ハリルのお母さんだった。
 そんなゼリヤを眺め、私とジグルズ様は微笑んだ。

「ハリル。私が王宮へ戻ったら、遊びにきてください」
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