さようなら、お別れしましょう
「王宮になんて入れないよ……」
「私とハリルはもうお友達です。生きているのに、もう会えないなんて寂しいでしょう?」
「レフィカ様……」

 私の言葉は、ハリルの涙を止めるどころか、涙を誘い、目から大粒の涙がこぼれていく。
 
「俺も寂しくなるな」
 
 ジグルズ様がそんなことを言うとは思わず、驚いて足を止めた。

「ジグルズ様は王宮へ来られないのですか?」
「王宮に出入りしないようにしている。イーザックが王だ。王位を捨てた王子が、頻繁に王宮に顔を出すのもおかしいだろう」

 そういえば、ジグルズ様は王宮へほとんど来なかった。
 来たのは、私とイーザック様の結婚式の日だけで、それも短い時間だけ――

「それでは……会えなくなりますね」

 運河の黒い水面には、花火が映っていた。
 すぐに消えていく儚くて、綺麗な光――しばらくの間、私とジグルズ様はその光を黙って眺めた。
 
「レフィカ、もし【契約】を無効にできたら……」

 先に口を開いたのは、ジグルズ様だった。
 けれど、その先を言う前に、ジグルズ様の視線は私でなく別のほうへ向けられた。

「全員、気をきかせすぎだ……」

 水面を見ていた私は、なにが起きたのかと思い、顔を上げた。
 気づくと、さっきまで、ゼリヤとハリル、大勢の護衛がいたのに、姿が見えなくなっていた。

「ゼリヤたちはどこへ? ジグルズ様の護衛は?」
「気をきかせたらしい」
「気を……?」
「二人きりで話をさせてやろうと思ったんだろう」

 ――最後だから。

 ジグルズ様はそう言わなかったけれど、私は気づいた。
 船着き場へ行くまでの短い時間、悔いのないお別れができるよう配慮してくれたのだ。

「お別れを言う時間をくれたんですね」
「しんみりするのは好きじゃない」
 
 私は花火が上がっていてよかったと思った。
 花火で町はいつもより賑やかで明るい。
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