さようなら、お別れしましょう
 お祭りのような空気がなかったら、私たちのお別れは暗いものになっていたはずだ。
 私は微笑みを浮かべ、ジグルズ様に改めてお礼を言った。

「ジグルズ様、ありがとうございました」
「……お礼を言われるほどのことはしていない」
「そんなことはありません。私に希望をくれました。今日も私のために、お客様を招いたのでしょう?」

 ジグルズ様は『そうだ』と口に出して答える代わりに、手を伸ばして、私に触れようとした。
 その瞬間――

「兄上」

 私たちの後を追いかけてきたイーザック様が、ジグルズ様の名を呼んで、その手を止めさせた。

「レフィカを殺す気か?」

 ――浮気は死。

 ジグルズ様の手が離れ、じっと自分の手を見つめる。

「……悪い」

 イーザック様は怒っていて、私の手を痛いくらいに強い力で引いて、ジグルズ様から遠ざける。

「レフィカを連れ戻しに来て正解だった。自分の【契約】をわかってるのか? このままだと、お前は死んでいたぞ!」
「……申し訳ありません」
「兄上、客人の出迎えは俺とレフィカがやる。レフィカのそばに、二度と近づかないでもらいたい」

 いつもジグルズ様は余裕があり、イーザック様を笑ってかわすのに、その顔に笑みはなく。険しい顔をしていた。

「レフィカ、行くぞ」

 イーザック様に手を引かれ、私はジグルズ様の表情を長く見ていられなかった。
 同じ運河沿いの道で花火の音は続いているのに、さっきより遠く感じた。
 私とイーザック様は無言で歩く。
 つかまれた手が痛くても、なにも言えなかった。
 イーザック様に手を引かれた瞬間、私はわかってしまった。
 私の心臓が苦しかったのは、刻まれた【契約】のせいではない。

 ――私はジグルズ様を……

 私がその先の答えを導き出す前に、どんっとイーザック様にぶつかった。
 急にイーザック様が足を止めたせいだ。
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