さようなら、お別れしましょう
 俺が戻ったと知った大臣や侍従が、必死な形相で駆けつけてきた。

「陛下っ! 突然、ベルクヴァイン公爵領へ行かれるとはなにごとですか?」
「なにか問題でもございましたか?」
「まさか、家出ならぬ王宮出……」
「真面目な陛下が、こんなジグルズ様のような真似をするとは!」

 正直、こんなに心配されるとは思わなかった。

「俺がいなくて心配していたのか?」
「当たり前ですぞ!」
「母后様のもとへ行ったのかと、使者を送ったものの、いないとおっしゃるし……」

 ううっと大臣が泣き出した。

「自由奔放なのは、ジグルズ様お一人で結構です」
「いかにも!」
「そうか。悪かったな」

 俺が自信を失おうと、兄上より劣ろうと、周囲は俺を王と呼ぶ。
 ならば、俺は王であり続けるしかない。
 それ以外の何者にもなれないよう育てられてきたのだから。

「陛下は我々の気持ちをわかってくださる素晴らしい方です!」
「ジグルズ様が王宮を抜け出し、何ヵ月も行方をくらました時は、何人のクビが飛ぶかと、ヒヤヒヤさせられましたからな」

 大臣や侍従は兄上にかなり手を焼いていたようだ。
 兄上はほとんど王宮にいなかった。
 それを考えると、兄上は早いうちから、王にならないと決めていたのではないだろうか。

 ――兄上の血のように赤い瞳。あれはグランツエルデ王の力なのか?

 遥か昔、神は人間の中から王として、ふさわしい人間に力を与えた。

『やがて、お前は王となるだろう』

 そう告げたという。
 神から力を与えられた人間は、やがて王となった。
 俺が即位した時、父上からなにも継承しなかった。
 だから、てっきりグランツエルデ王家の力は長い歴史の中で消え、ないものだと思っていたが、父上は兄上に力を継承していたのだ。
 なぜ、兄上の母親が早くに亡くなったのか、誰に聞いても教えてもらえなかった。
< 191 / 194 >

この作品をシェア

pagetop